顎関節腫瘍

概要


 頭蓋底病変の一つでもある顎関節腫瘍は極めてまれな疾患で、病変が深部にあるために診断が遅れがちとなり、かなり大きくなってから発見されることも少なくありません。顎関節腫瘍は下顎頭や関節窩の骨、軟骨、滑膜などに由来し、大きく良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。

良性腫瘍には、主に骨に生じる類骨骨腫、骨芽細胞腫などや、軟骨に生じる軟骨芽細胞腫、軟骨腫などがあります。また悪性腫瘍としては、骨肉腫や軟骨肉腫などが発生します。その他、巨細胞腫や血管腫なども報告されていますが、これら真の腫瘍の発生はまれで、むしろ骨軟骨腫や滑膜軟骨腫症などの腫瘍類似疾患の発生頻度が高くなります。

症状


良性腫瘍では痛みが生じることは少なく、関節頭の腫瘤増大によって緩徐に下顎が健側へと偏位し、顔面が非対称となります。腫瘤増大により患側の臼歯部が咬合できなくなり、交叉咬合や前歯部開咬などの不正咬合が生じることがあります。また、関節痛、雑音、開口障害などの顎関節症様症状が現れることもあります。

悪性腫瘍では良性腫瘍と同様の症状の他に、顎関節周囲の知覚異常、聴力障害などが生じることがあり、これらの症状が急速に進行することが特徴となります。

診断


上記の症状を問診、視診、触診で診査した後に、CT、MRI、SPECT(シンチグラフィの断層撮影)などの画像診断を行い、顎関節および周囲組織への腫瘍の進展状況を把握します。悪性腫瘍の鑑別として、知覚異常や運動障害などの神経症状の確認、および画像上での骨破壊像の有無などを精査します。確定診断には生検または細胞診が必要となりますが、超音波ガイド下のFNAC(穿刺吸引細胞診)は侵襲が小さく、直達不能な顎関節腫瘍の診断には極めて有用です。

顎関節腫瘍のMRI画像

治療


良性腫瘍の場合は、機能と形態保持の観点から可能な限り病変のみを切除(腫瘍切除術)しますが、深部に位置する場合や、腫瘍が大きく術後に運動障害が生じる可能性のある場合などは、関節頸部で病変と一塊にして切断する(関節頭切除術)こともあります。

一方、悪性腫瘍では、周囲健康組織を含めた広範切除が第一選択となり、組織型に応じて補助的に放射線療法や化学療法を行います。関節突起部の再建には、下顎頭付き再建プレートや自家骨移植などが適応となります。

 

再建プレートによる顎関節腫瘍の咬合再建治療

慶應義塾大学病院での取り組み


・総合病院の利点を生かした専門各科との連携、クラスター医療

頭蓋底センターでは顎関節腫瘍に対して、コンピュータシミュレーションを用いた安全で精度の高い治療のみならず、顎口腔機能および整容面での回復に努めるため、関連各科が協力した集学的治療を行っています。

顎関節や口腔の再建が必要な場合は、形態の再建のみならず、デンタルインプラントや顎補綴チームによる顎口腔機能の回復に努めています。高度の摂食・嚥下障害に対してはリハビリテーション科の協力のもと、より専門的な機能評価、機能訓練を行っています。